2020年度 TOP8戦評

2020年度リーグ戦
  • 順位決定戦 2020年11月29日(日)桜美林大学●14-38○日本大学

    『日大、甲子園ボウルへ進出』

    試合終了直後だった。
    ベントサイドでは身体を90度以上に折り曲げ、なかなか上体を起こせない日大エースQB19林の姿があった。
    そこにはアミノバイタルフィールドの冷えた清涼なる人工芝へ、あたたかな涙がぼろぼろとこぼれ落ちていた。そして泣き崩れはしなかったが、その膝もが震えていた。
    左右両側にいた部員も、何かあったらと林の腕を支え始めようとした。
    「今日の試合、有難うございました」
    と、桜美林大のベンチへ大声を張り上げ頭を垂れたOL57伊東主将が、少しだけ右足をひきずり笑顔で林にがばっと抱きついた。エースWR25林も思い切りよく駆け寄ってきた。それと相まって主力RB30川上がほんの少々照れくさそうに歩み寄った。
    さらに、沈着冷静でオフェンスをリードして勝利に導いたQB4小野が、同期QB林の感極まる姿を優しく微笑みながら、目に刻んでいた。

    「わからない展開でしたね。これでようやくフェニックスのスタート地点に立てた気がします。主将がケガで出られずQBもケガ、そこからの底力、実力を出せました。その逆境を力にすることができて、チームが成長した証しです」
    混沌とした状況に置かれていた日大アメフト部に入り、その立て直しを期した立命館大OB橋詰監督であった。

    試合は強者日大を冷徹なまでに戦力分析をして、その対策をしっかりとインストールしてきた桜美林大のペースで始まった。
    「どうでしょうね、最後は力ワザでやられましたね。途中までは良かったのですが、息切れしました。QB林くんがケガで引っ込まなければ…、案外チャンスがありました。敗戦は残念ですがこれからのチームも期待できますから」
    どこかしら、余裕があった桜美林大の関口監督。
    それは最初のワンシリーズで判明した。日大QB林は研究され尽くしていたのである。
    ホットラインWR25林は前半のTD1本に抑えられ、また苦し紛れに投じたパスはわきへと逸れていた。しかも第2Q終盤には頼みのQB林がキープランに。これは予定通りだとタックル狙いにでた桜美林DB陣にハードヒットを受け、そのままベンチ奥へと退いた。

    ストーリーは桜美林大の流れで進み始めた。
    「ここで、日大の魂を見せるんだよ!」
    ベンチからは幾度も意気高い伊東主将の叫びに近い重みある怒声が、あたりに響いた。

    急遽、フィールドに立ったQB4小野は、クールな表情を崩さないままその足場を固めて、的確無比に力量あるRB陣へハンドオフとピッチを柔らかく繰り返した。
    歯を食いしばり絶妙なステップワークでRB川上が走り、カットを切ってTDさらにはWR林が競り合いパスをもぎ取り駆け抜けた。
    こうなると経験豊富で選手層が厚い日大に一日の長があろう。
    「勝てて良かったです。桜美林のタックルは精巧度が高くて。そのタックルの隙をつきながら守備のギャップを見て走って。もう理屈ではないですね、気持ちなのです」
    RB川上は堅実に3本ものランTDで、試合を仕上げた。

    桜美林大は、快速WR19福田のキックオフリターンTDが光り輝いた。
    「前半はすべてアジャストできていました。ただ、もっと1対1と球際に強くありたいです。河口さんには外国人の身体の動きを教わりました。体の軸や可動域についてなどです。それを日頃からていねいにやってきた成果がここで活きたと思います」
    いわばフィジカルでの強さが桜美林大の持ち味、そのタックルの鋭さもそうだ。
    これは長年のフィジカルコーチである河口正史さん(元NFL欧州選手・JPEC代表)による熱心な指導の賜物だった。

    後半ようやく場に対応できた日大は、ついに、これでもかと怒涛のTDを重ねた。
    はなから主将を欠き、エースQBが去った日大は、けっして慌てることなく試合を進行せしめファイナルスコア38-14で勝利を得た。

    日大はその実力通りの勝利を得て、東西大学対抗戦『甲子園ボウル』へと出場を決めたのだ。
    昔ながらの伝統の試合、それも赤対青の対決でノスタルジックな想いにかられ、盛り上がり必須のゲームが期待できそうだ。そこでは、とにかく好試合を望みたい。

    試合後半、第4Qになれば陽は落ち、それはもう猛烈な冷えと寒さに抱かれてしまう調布のアメフトフィールドだった。
    集合写真を撮り終え、取材が終わったQB林はしばらく放心状態にあった。
    そこへ小柄な紳士がひとり、林の脇腹によくやったねとの意味を込めて軽くグーを入れた。
    涙がとっくに枯れ果てていた林、とたんに健やかな笑顔へとかわった。

    今宵の月夜は、ひとしきり心に暖かみを持って響いた。

    〔関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬 孝文〕
  • 順位決定戦 2020年11月29日(日)法政大学〇31-23●明治大学

    『個人技が映える法大』

    やはり快速いちばんのRB30星野だった。
    それは自陣深くからのスピードランで長躯84ヤードのランTDで先制パンチ。これで明大は一瞬、気がひるんだようにみえた。
    「いつもRB29阿部先輩の背中ばかりを見ていました。どうやるとああいうような走りができるのだろうと、普段の練習から、でした」
    これにチェンジオブペースのランが身につくと、もう手が付けられなくなりそうな星野である。

    伝統的に法大ベンチには優秀な学生スタッフが揃う。
    下級生のときは大型ラインとして活躍していた内田優君を見かけた。
    ベンチを左右に駆け抜け、そしてスタンド下の塀際に置かれた椅子に座しパソコン操作に集中していた。彼はアメフトの名門駒場学園高から鉄壁なラインとして入部、活躍を嘱望されていたがケガにより選手生活に区切りをつけ、ならばと志願してスタッフ入りしていた。
    「もう体重が25㎏も落ちました(笑)。最初は慣れないことばかりで戸惑いましたが、続けているうちにチームのバックアップスタッフとして学ぶことがたくさんありました。これらは、いずれ社会人になってから活きてくると思います」
    以前の姿から見るからにやせ細った姿で、後輩のスタッフカメラマンに指示を出し、それを見守りさらにアドバイスを与えていた。

    「今季、最後の試合ですから気合を入れて、4年生が頑張りました。また試合を通して成長していく選手がたくさんいました」
    そう、有澤監督が語る。
    QB4平井とRB星野、長身のWR11小山に持ち前の強力で技術あるOLとDLのユニット、そこに何よりも個性派なタレントが揃う。来シーズンの法大も期待が持てそうだ。

    紫紺魂を前面に打ち出す明大は、立ち上がりからいくらか受け身に立った印象にあった。
    「最後まで、あきらめない気持ちを出すことができたように思います。それこそが明治らしさです」
    巨漢岩崎監督はミーティングで4年生に感謝を述べ、そのまま万感の涙にくれた。
    心優しきエースQB4西本は、バランスよくミドルレンジへとパスを投げ分けていた。そこにロールアウトを絡ませてのランパスを加え、頼みのエースランナーRB29山田主将へ丁寧にボールをハンドオフ、それで守備を翻弄しつつあった。
    「ディフェンスリーダーとして守備を作り上げていきました。前半はクセを見抜かれていて、これを修正できた後半ですね、オフェンスに勢いが出てきました」
    DT99樋口は良い状況にして攻撃に渡せたと、ほっとした表情をみせた。
    タフな追い上げを見せたものの、あとひとつ。
    それは学生主体を貫く明大らしさ、質実剛健そのものの姿だった。

    〔関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬 孝文〕
  • 順位決定戦 2020年11月28日(土)早稲田大学〇40-7●東京大学

    『早大、盤石な勝利』

    東大の長身QB11ボストロムが豪快に投げ、俊足を生かし快活なまでに走った。そして得た貴重な1本のTDだ。
    温暖な静岡出身の陸上競技選手それもやり投げの強肩。スローイングこそ、その頃の名残があり、個性的な投げ方になるのは彼らしく、じつに存在感のあるQBだった。

    試合を終えて、頭脳派で名高い森ヘッドコーチが全員に冷静に告げた。
    「ほんとうに勝ちたいのだろうか、皆に悔しいという気持ちがあるならば、それをより出さなければならない。本気でやるからこそ、そこに成長があるのだ」
    試合に対する心構え、たとえどのような展開なろうとも最後までしっかりとやり切る。その大切さを説く、求めるものは高みにある。
    「わたしはフリーのアサインで、縦横に走りタックルしていきました。ひとりで仕留めることを意識してのタックルです。低く入り、足をしっかりと使う。それなのです。ただ、全体をいえば力の差があり、それを埋めたく思いました」
    前年から守備のかなめとして大活躍を見せていたDB19助川だった。
    その低く鋭いタックルは、しばしば窮地をしのいでいた。

    早大はエースランナーRB25吉澤がこの試合でも、強靭なOLの背中を活かしたランで着実にゲインを重ねていた。
    「低くいって鋭く爆発する教えなのです。守備の対人との向き合い方もそうです。これからも、もっと独走のTDをあげたく思います」
    キャリアは28回で174ヤードを記録。その基軸となるのは、RB指導者として名高い中村多聞コーチ(元NFL欧州選手・ゴリゴリバーガー店主)の存在があり。日頃から鍛え上げられたパワフルな下半身で、中央部を抜けて守備をひきずりながらの圧巻の前進であった。

    「全員が最後まで集中してできたゲームですね。学生には目標となる数値を与えていて、そこにたどり着こうと言い聞かせていました」
    大柄でベンチ最前線にどっしりと構えていた高岡監督。
    その数字にはやや届かずにいたようではあるが、最後まで早大らしさに満ちた重厚なフットボールをみせてくれた。

    〔関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬 孝文〕
  • 順位決定戦 2020年11月28日(土)中央大学●28-30○立教大学

    『残り1秒からの逆転劇』

    前の試合、K8中山は悔しさにまみれていた。
    負けたあとのハドルのかたわらで、無言でヘルメットを置き、防具とキッキングネットとをかたづけ始めた。
    そこに蹴りたかった想いは充分に伝わってきていた。
    それから2週間、心を込めての猛練習、ひとつの高みへと突入した感のりりしい中山の姿がフィールドにあった。
    1年生QB宅和は残り数秒あれば勝てるとの確信を得て、計算され尽くしたミドルパスをWRへヒットさせていく。しかも最後にはキックが入りやすいようにと中央寄りの位置までボールを戻してしまう絶妙なパスまでを。
    もはや中山は、入れるしかない。
    「いつもと変わらずに蹴りました。平常心と集中の心です。残り1秒、そうですね。4年生のために蹴りました。キッカーは自分との闘いです。つねに質を上げていくため、これからも練習を重ねていきたいです」
    そのボールは追い風を味方につけて、まっすぐな弾道でゴールポストを力強く抜けていった。2年生キッカー中山は29ヤードと44ヤードそして勝利を呼ぶ47ヤードのロングキックを決めた。3回のFGすべて成功させたのだ。
    意気揚々とそれでいて落ち着きあふれ完璧なキックですべてを表現した。
    第4Qに28-27からの大逆転、残り1秒で28-30として試合終了。

    「ようやく結果を出すことができて、めちゃくちゃにうれしいですね。ここまでのたくさんの悔しさを忘れることなく来季へと。宅和も中山も、とても楽しみです」
    喜びをかみしめながらの中村監督だった。

    かたや敗軍の将、多くを語らず。
    「4年生が中心となってよく闘ってくれました。精一杯、やり切ったと思います」
    姿勢正しく前をみつめた中大の須永ヘッドコーチ、その洗練された戦略と指導力は就任初年度では、その浸透が難しくもあったようだ。
    「勝てるQBになりたいです」
    若き2人のQB8小島とQB10西澤がそれぞれに『もっと練習をしたいです、須永HCにみてもらいたい』と口を揃えていた。
    そこには歴戦の雄、日本代表QBであった日大OB須永ヘッドコーチの優れた技術を身につけたいとの思いがある。
    「いいわけを言ってはいけませんが、実際に選手層の厚さについてはこれからかもしれません。成長したいという願う選手たちがよりたくさん増えてくれることを望みながらですね。それぞれポテンシャルは高いものがあるだけに先が楽しみでもあります」
    2年から3年後にはひとまわり以上、大きくなった中大ラクーンズの新たな姿を見ることができそうだ。

    〔関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬 孝文〕
  • 第3節2020年11月14日(土)立教大学●3-9○桜美林大学

    『桜美林大、上昇機運』

    宵闇が近づいてくる中、桜美林大のホワイトジャージが各所で躍動していた。
    「前が空いていたので走りました。勝ったのはとても良いこと、でも、まだまだです。シーズン中にもっと成長したいです」
    という1年生QB3水越は、前の明大戦に勝利をおさめ自信をつけたと同時に、大学フットボールのプレイスピードやアクションに慣れてきてもいた。
    最終4Qにはそのパッシングフォーメーションから、充分に鍛え上げられた立大守備DBにWRがマークされていると判断するや、すぐにダウンフィールドに走り出て右にカット、そこから瞬時に左へと流れて23ヤードのキープランTDを決めてしまった。
    そのリズムと勢いのまま試合が終了した。
    「頼みのディフェンスがいい局面でターンオーバーを決めてくれた。攻撃は立て直しが必要です、QB水越はこの試合も良い経験になったと思います。明大に勝って、立大に勝たなければ意味がないという意気込みもありました」
    勢いにあふれ、高鳴る心を落ち着かせながら語った桜美林大の関口監督。
    また、ひととおりチームのハドルを終えてもなお着替える時間さえ惜しみ、後輩たちを明るく朗らかに諭していたOL73鳥辺だ。
    「足が動くならばいつまでも、奥へ奥へと走っていく。それが私たちのフットボールです。ラインがみんなで頑張ってQBの水越を守りRBに道を開けやりきること。何よりもそれが大事なのです」
    こういう後輩思いのラインの面々に懸命にささえられたQBは、なんと幸せなのだろう。

    「ほんとうに勝たせてやりたいのですよ。練習期間が限られていた、こういうシーズンであり試合ができることに全員で感謝しながら、チームがひとつになれたように思います」
    言葉少なめな立大の中村監督だ。
    通常、まとまりの良さが光る立大なのであるが、今季はトレーニング時間の少なさに苦慮していた部分があった。
    「経験になっていますが、もとよりチームを勝たせたい気持ちでいっぱいです」
    今後も期待される1年生QB宅和は高校時代から経験豊富、さらなる飛躍が期待できる。
    「悔しい試合だからこそワンプレイの重みを感じて、目の色を変えて進んでいこう!」
    ディフェンスの2列目LBのまとめ役として激しいヒットを見せていた4年生LB52太田は、最終の順位決定戦めがけて、力強くそう言い放った。

    〔関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬 孝文〕
  • 第3節2020年11月15日(日)早稲田大学●21-28○明治大学

    『明大、追撃を阻む』

    陽が沈むと、あたり一面に冷え込みがきてしまう東京調布アミノバイタルフィールド。
    静かなスタンドに、ときおり突風が吹きまみれ、より一層の寒さに包まれる。

    明大は堅実なRB29山田主将のランと巨漢FB43伊勢へのパスでTD2本を先取。そこから用意周到な早大が続けざまにRB25吉澤の低く鋭く伸びるランとWR13田口へのパスで2本返して同点とした互角の対決。
    エースQBはともに4年生で、明大QB4西本に早大QB12宅和とのパス、それぞれが有する秀逸なRBを活かすハンドオフとフェイクをまみえたラッシュは実に見応えがあった。
    だが終始、落ち着いたベンチの明大。
    「さて、我々の軸になるプレイとはなんだろうと問いかけ続け、修正しながらモチベーションを高めていきました。とにかく4年生がうまくチームをまとめてくれました」
    岩崎監督はいつもの早口を抑えながら、ゆっくりとうれしさをかみしめつつ語った。

    「前の桜美林戦の反省があって、あのときは焦りがあって攻撃のリズムを崩してしまいました。今日はどのような場面でも落ち着いてプレイできました」
    最上級生となった明大QB4西本も左右に走りながらの小気味良いパッシングを披露。そのキャッチした後のランで着実にエンドゾーンへとなだれ込んだFB伊勢は先を行くWRをリードブロッカーに使ってのTD、そのコンビネーションも抜群であった。
    「早稲田とは簡単な試合にならない、必ずもつれると気を引き締めていました」
    この試合、チームに勢いづけるランTDを2本記録したRB山田主将、これこそ明大紫紺魂の体現であった。

    試合後のハドル後に芝へ膝をつき、しばしうなだれていた左腕エースQB宅和。その左腕から華麗なパスを奥目に投げ込んでいた。
    「やるべきことはやれたと思います。とにかく悔しいです。練習時間が少なくともWRとはイメージのすり合わせができていたのです」
    と、悔しさをにじませながら、すっくと立ち上がり、それは早大生らしさで礼儀正しく応えてくれた。
    「なんですかね、前半2本先制され、明大にモメンタムを持っていかれて…、そこから同点に追いついたのが、そうですね…御の字ですね」
    よもやの出来事で練習中止の期間があった早大・高岡監督は、淡々と現在のチーム状況を交えながら話を進め、ひと呼吸おいて、静かに、ため息をついた。

    〔関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬 孝文〕
  • 第3節2020年11月15日(日)法政大学〇33-21●中央大学

    『個人技炸裂の法大』

    好天に映える伝統の色合いは、見るからにベーシックなオレンジとホワイトの法大カラー。
    それが躍動して魅せた。
    「4年生の頑張りが根底にあります。初戦の負けからの立て直しもそうです。今日のオフェンスは反省点がありますが、うちには個人技があるので」
    と、にこやかに、やや甲高い声で話し出した有澤監督。
    法大の多彩なラン攻撃ではエースRB29阿部と快速RB30星野とをうまく使い分け、とくに1QのRB星野の左サイドライン際を駆け上がった91ヤードTDランは圧巻であった。
    「あれで、チームに流れを持ってこれたので良かったです。それでも試合中に自分のキャッチミスなどと、まだまだ鍛える部分はたくさんあります」
    とはいえ、快走いちばん2年生RBの星野だった。
    さらに高さがあるWR11小山と柔軟なWR7糸川を軸に、インカットへのタイミングパスを通し続けた2年生QB平井は、攻撃的なパスプロテクションとブロックをみせる強固なOLに安心して、視野を広くしてのパスが冴え渡った。
    法大は、そういう個人が有するテクニックはTOP8各チームの中でもトップクラスにある。

    冷静なまでに試合を振り返る中大、その新就任3試合を終えた須永ヘッドコーチだった。
    「自らがペースを崩して勝ちきれなくなる。いまの彼らに必要なものは、そこからの脱却です。その上で結果が欲しく思います」
    求めるものはつねに意識が高いプレイ。それもそうだ、かつて選手としてNFLヨーロッパへ参戦、そこで多くのことを学んできたアメフトの頭脳、しかも日本学生代表のコーチとして活躍した時代があった。
    ただ連続した反則で2Qには45ヤードものロスを記録、その積極的なディフェンスはまま裏目に出てしまうこともある。
    「もっと集中して、プレイの質を高めていこう」
    とは、主将のDL23樋口である。

    「いま、猛烈に練習がしたいです。須永ヘッドコーチからQBのあるべき姿について1から教えてもらっています。チームを勝たせるQBこそすべてなのです。練習がしたい…」
    その軽快なパスが魅力の2年生QB西澤は、こう言い切って前を見据える。
    メインスタンド後方へ沈もうとしている西陽が、そんな西澤の顔をまばゆく照らした。

    〔関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬 孝文〕
  • 第3節2020年11月14日(土)東京大学●6-30○日本大学

    『伸びやかな日大』

    このところの都下は、晴天続きだった。
    「ほとんど走らずにパスを投げて、普通にRBへボールを渡して、でした。点を取って勝ちパターンになってくると気が緩む、それがいけないのです。これから最後の最後まで、突き詰めてプレイしていきたいです」
    日大のエースQB19林は、気丈ながらあたりまえのように述べた。
    もちろん安定感抜群の大型ラインに守られて、そこに危ういことはまったくなく、持ち前のスピードパスよりも、若手WRたちにしっかりと取らせるごとく、大らかな軌道を描いたパスを連投してTDを得ていた。
    好天でほどよい追い風にもなり、パッシングゲームには最適なアミノバイタルフィールド。
    このブロック3試合目に勝利して全勝、そのまま1-2位順位決定戦に挑む。その先には、あの歴戦で名高い甲子園ボウルが待っている。

    「我々は挑戦者です。ひとつずつ大切に勝っていくだけなのです。ですからこれからも粘り強く、激しく、戦っていきます。最終戦の桜美林大とは、昨年を含め何度か対戦していますので手の内はよく知っています」
    日大の橋詰監督は実直なまでに話してくれた。
    ときにタフさと粘り、荒々しさも兼ね備える日大なのだが、このゲームはどちらかといえば総合力での闘い方を選択したようだ。

    太陽を浴びると、燦然と輝くゴールド色のヘルメットとスクールカラーの水色がまばゆい東大は、攻守で健闘が見られた。しかし、なかなかTDまで行きつかない。
    だが、長身のランパスQB11ボストロムは試合後、目を輝かせていた。
    「要所で取り切れなかったことが悔やまれます。なぜ、1、2ヤード残してしまうのだろうか試合中はそればかり考えていました。3試合を通してたまに自分でプレイコールをしてと、QBは楽しいです。4QはひとつTDを取ろうと走った1本でした、うれしかったです」
    彼には、いまやるべきことをやっている、そういう満足感があった。
    「ここまできた、さらに基本を大切にしていこう」
    かたわらで、選手たちに要点を簡潔にわかりやすく伝えていた森ヘッドコーチ。
    そのていねいな学生目線の指導と明快な戦略は、ときに爆発力を生む結果となって表れた。

    〔関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬 孝文〕
  • 第2節2020年11月1日(日)中央大学●15-31〇日本大学

    『フェニックス』であるという自覚を持って

    「情けない試合でした」とRB#39秋元が振り返った試合。初戦の法大戦をハイスコアリングゲームで制した日大だが、『特別なシーズン』の難しさを実感する試合となった。

    試合の立ち上がりこそ順調にTDを奪ったものの、次の攻撃は攻めあぐねパント、続くシリーズもFGどまり。返す中大ドライブに8分時間を使われゴールラインに迫られるあたりまでは試合の流れはどちらに転ぶかわからないように見えた。
    しかしここで日大のスイッチが入る。中大攻撃をFGでの3失点にしのぐと、前半残り3分、自陣37ヤードからの攻撃をQB#19林のパスで立て続けにダウン更新、最後はRB#5足立へのパスでTD、突き放して前半を折り返す。後半最初の中央大攻撃にTDを許した直後のドライブでもRB#30川上のTDランでリードを守る。4QにはDB#33柴田のインターセプトで得た攻撃権を秋元のTDランに繋げた。「自分たちがフェニックスであるという自覚を持って、オフェンスはどんな状況であれTDまでもっていきたい」という言葉通りの攻撃で試合を締めくくった。

    中大は1年生RB#28北原の好リターンや#23樋口主将をはじめとするDL陣の奮闘などもあったものの、LB#43山北のファンブルフォースで得た攻撃権をあっさり手放したりトライフォーポイントの失敗など流れをつかみきることができず初戦に続いての敗戦。ブロック最終戦は副将RB#3大津が1年生の時に決勝TDで勝利を挙げた法大戦。このままで終わるわけにはいかない。

    〔関東学生アメリカンフットボール連盟放送委員長 松川 達也〕
  • 第2節2020年10月31日(土)法政大学〇34-0●東京大学

    『法政、ショックからの再出発』

    法政大学が昨年苦戦した東京大学を、計6度のターンオーバーを奪った守備陣の活躍で一蹴した。第1節で日本大学に力負けし、大きな目標がついえたかに見えるが、有澤ヘッドコーチは、「四年生がよくチームをまとめ、引っ張ってくれた」と、まずは最上級生を褒めたたえた。

    立ち上がりから、随所に光るプレーはあったが、思うように得点を重ねることはできない、どこかもどかしい展開だった。前半は2TDと1FGで17-0とリード。後半、先に1本返されると、勝負の行方はどうなるか分からない展開にも見えたが、第3Q終盤に四年生のLB#57斎藤がインターセプトから78ヤードを走り切ってTDし、東大を突き放した。
    斎藤にとって、大学では初めてとなるリターンTD。奪ったパスは、東大の第4ダウンギャンブルで投じられたものだったが、「取れるボールが来たので、取ろうと思った。いつタックルされるか怖くて、外に出ようかとも思ったが、味方がよくタックルしてくれた」と声を弾ませた。敗れた日大戦後は、タックルミスが多かったという反省から、タックル練習を見直したという。「日大戦よりミスは少なくなったが、今後に向けてもっと改善していきたい」と、すぐに気持ちを切り替えて、口元をぐっと引き締めた。

    相手の指揮官は、かつて有澤ヘッドコーチとともに社会人の鹿島、リクシルでチームを率いた森ヘッドコーチ。2017年に二人がそれぞれ法政と東大に移って以降、両チームは合同練習や合宿、練習試合などで、たびたび顔を合わせてきた。いわば、互いの手の内を知り抜いている者同士の戦い。終わってみれば、スコアは一方的なものとなったが、有澤ヘッドコーチは、「森さんなので、やりにくくて仕方がなかった。最後まで安心はしなかった」と、ときおり笑顔を浮かべながらも、慎重な姿勢を崩すことはなかった。

    東大は第1節で中央大学に逆転勝ちし、その勢いに乗って連勝を狙ったが、思わぬ大敗となった。パワフルなQB#11ボストロムも、この日は不発。森ヘッドコーチは、「法政と何回もやってきた中で、ベースの部分、つまりライン戦やタックル、コンタクトというところでは、一番差が少なかった」と手応えを話すと同時に、「だからこそ悔しいし、ミスがもったいなかった。いいところ、悪いところを含めて、これが今の力」と、潔く負けを認めた。

    〔関東学生アメリカンフットボール連盟専務理事兼広報部長 関根 恒〕
  • 第2節2020年10月31日(土)明治大学●7-17〇桜美林大学

    『桜美林、「絶対勝つ」ミッション完遂』

    上位校の明治大学から大きな勝利をもぎ取った直後、桜美林大学の関口監督は「きょうはもう、絶対勝たなきゃいけない試合だった」と語ると、あふれる涙をこらえることができず、しばらくうつむいて声を詰まらせた。
    初戦で早稲田大学に3点差で惜敗した翌日、学校法人桜美林学園の佐藤東洋士理事長・学園長が76歳で亡くなった。桜美林では、アメリカンフットボール部など7クラブを特別強化部とし、学園創立100周年の2021年までに複数のクラブで全国優勝するという目標を掲げている。「ずっとチームを応援していただいた方。絶対に勝たなきゃいけない試合だった」と、同じ言葉を繰り返し、部を支えてくれた恩人にひとしきり思いをはせた。

    1部リーグがTOP8とBIG8の縦列編成となった2014年以降、初めてのTOP8昇格。それにもかかわらず、桜美林の戦いぶりは、実に堂々としたものだった。
    ノーハドルのオフェンスを、一年生のQB#3水越が巧みに操れば、ディフェンスは相手に先制TDを許しながらも、その後は我慢して要所でプレーを止めた。キッカーとパンターを兼任する#18神杉は何度も好パントで陣地を回復。第4Qには駄目押しのFGを決めた。
    相手陣深くで、そのFGにつながるインターセプトを奪ったCB#21河井は、「DLとLBがランを止めてくれたので、DBはその分パスに集中できた。この試合、自分はインターセプトを狙っていたので、あそこで取れてよかった」と胸を張った。さらに、「明治に負けたら甲子園ボウルという夢がなくなる。死ぬ気で勝つ気でいた」と続けた。

    「絶対に勝たなきゃいけない試合」、「死ぬ気で勝つ気でいた」。桜美林は、明治との一戦をそう位置付けていた。チームを指導して8年目の関口監督は、社会人の古豪アサヒビール・シルバースターで10年以上指揮を執るなど経験豊富。当初は3部に落ちていたチームを、地道に強化し、学生日本一を目指せる位置までたどり着いた。「ひとつひとつ勝っていくしかないが、志は高く持っている」と、その視線は常に上に向けられている。

    伝統ある上位校に胸を借りるのではなく、勝利することをミッションとして掲げ、そして勝利をつかみ取った桜美林。最終節で立教大学に勝てば、もう1試合の結果次第でBブロック1位になる可能性もある。「あまり先のこと考えずに、しっかり次を見据えてやっていきたい」と関口監督。ひとつのミッションを完遂した面々が、次のミッションに向けて、再び周到に、そして鋭く牙を研いでくるはずだ。

    〔関東学生アメリカンフットボール連盟専務理事兼広報部長 関根 恒〕
  • 第1節2020年10月17日(土)早稲田大学○9-6●桜美林大学

    『雨のなかでの辛勝』

    ひとりのキッカーが、黙々とベンチサイドでボールを蹴り続けていた。
    そのかたわらでは、サポートする下級生選手がていねいにボールをセットしていた。
    桜美林大K/P18神杉は、ふう、と一息。グラウンドコートを無言で受け取り、チームテントの方へと消えていった。
    後半3Qには得点後のTFPで早大ブロックの手にあててしまい失敗、それでも味方の逆転を信じて、ベンチへ戻り静かにキック練習を続けた。
    途中、パントでぎりぎりの3人ラッシュにラフィング寸前。しかし冷静沈着、それも紙一重で蹴り上げ、反則を回避。その技術あるキッキングの力量は、玄人好みといえそうだ。

    TOP8に初昇格して意気上がる桜美林大は、勢いとその統制の取れたベンチワークに選手のポジティブな声が各所であげられていた。
    「早稲田は強かったです、私たちは1年生QB水越に頑張らせました。若いチームで失うものは何もありませんから。TOP8は初挑戦、それでもやることは変わらず、そこでさらに磨きをかけていきますよ」
    雨中、わずか3点差の負け試合であったが、ひとしきり目を輝かせていた関口監督だ。
    パスは5回投げて1度の成功、それ以外はRB7人を駆使してランプレイに徹し138ヤードを獲得。4Qには自陣に追い込まれて投げ、インテンショナルグランディングで2点を取られてしまったQB3水越、その彼に対しても全体的によくやったと評価した。
    「悔しいですね、チャレンジャー精神をもって全員で桜美林フットボールをみせていこうとしました。負けはしましたが、甲子園ボウルを目指してしっかりと進みます」
    初戦ながら、つねに目標である甲子園を口にする好漢DL90室伏主将だ。

    いつもながらのスロースタート、ともすれば相手に合わせる試合運びをしてしまう、まったく好ましくないゲームの入りとなる早大。はなから受け身で守りに入り、ましてやいつかは点が取れる、そういう流れに包まれていそうな空気もあり。
    「雨で寒い中、ミスの連発でファンブルロストをたくさんしてしまいました。この雨を想定して練習を重ねてきたのです。相手のノーハドルオフェンスにも慌てずにいられたのは、それが活きたわけで、今後そのあたりを上げていくことが肝要です」
    大柄ながら、すまなさそうに身体を小さくして語る前年覇者の高岡監督だった。
    「まだまだ完成度が低いです。サードダウンからずるずるとなど。先、ひとりひとりが覚悟を持ってやり遂げていけるよう努力します」
    ぎゅっと口を結んだ早大のDB21大西主将。

    初戦で確かな手応えを得た桜美林大、これから後半戦の第3節と順位決定戦へ怒涛のごとく仕上げてくる早大、二者二様の開幕ゲームだった。

    〔関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文〕
  • 第1節2020年10月17日(土)中央大学●7-10〇東京大学

    『東大逃げ切りの勝利』

    降り注ぐ雨は止まることをしなかった。
    あたりは徐々に暗さに包まれ、冷え込む厳しさにまみれた。
    選手達は、普段のどれくらいの力を出せたのだろう。ましてやこの情勢下である。
    思い通りに練習に取り組めなかったとは、いいわけではなく、ぽつりと聞こえてきてもいた。

    今シーズン、新たに注目の須永ヘッドコーチを招いた中大である。
    「普段の練習で、できていたことが試合で出来ていない。そうですね、まだ道半ばと思います。フィジカルの強さもまだまだ、もっともっと強くありたいです」
    呆然というわけでもなく、悔しさを押しとどめたようなまっすぐな語り口調の須永HCだ。
    冷たい雨でボールが手につかなくなり、パッシングもままならず。しかも、きついタックルを浴びせるハードなLBに特徴のあったディフェンスも、前年に比べると少しばかり大人しい印象すら受けてしまう。
    「実力不足です。この結果から逃げずに仕上げていきます。須永ヘッドコーチが来られてからチームの雰囲気が変わりました。その与えられる基準が高くて、よりプレイの質を上げていかなければなりません」
    と前を見据え、ていねいに応えてくれたDL23樋口主将。
    目につくことでいえばWRのキャッチミスなど、ここでという場面で幾度かあった。ならばそのあたりで成長できる可能性がまだたくさんあるということ、そこにスタッフのまとまりで相乗効果と相まってきそうだ。
    日本代表エースQBの実績さながら、須永HCの今後の手腕に期待が寄せられる。

    いよいよTOP8の試合とそれまでの準備から心構えなど何からなにまでに慣れがみられてきた東大である。たとえリードされようとも、ベンチに構える選手たちの勢いと集中、さらに最後まで心の余裕があった。
    「スポーツ推薦もなく、そこに他チームと明らかなハンディがあり、それを言い訳にしないこと、なんとかしていく強い意志と心意気が必要です。逃げ切りのゲーム、今日は選手がよくやってくれました」
    社会人チームと日本代表チームで実績豊富な森ヘッドコーチは、それこそ快活に言う。
    QBは大柄なランパスQB11ボストロム、そのフォームは陸上競技やり投げの名残があるものの、スポーツセンスの良さで投げて走って、ワンチャンスを逃さずにランTDを決めてチームを勝利に導いた。
    「試合中は皆に助けられて、なのでみんなに感謝したいです。できることからやろうと、つねにそういう気持ちです。それに投げるのが好きで(笑)」
    未完の大器から、秘密兵器さながらの個性派4年生QBの登場だ。
    「やはり選手には自主性を求めています。チャンスに皆で息を合わせていくことができました。雨でラン中心のプレイになりましたが、意識の高ぶりがそれぞれにあり、それがまとまりになって表れたのです」
    オフェンスのキーマンLT72唐松主将。話をしていると、よし心得た、とついていきたくなるようなリーダーである。

    〔関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文〕
  • 第1節2020年10月11日(日)法政大学●34-44〇日本大学

    『日大パワフルなランで勝利』

    今季いきなりの大一番を迎えた。
    前年に関東1部BIG8で圧勝を重ね1シーズンでTOP8に復帰してきた日大には、ひとつの強い思いがあった。
    「いまの4年生は法政に1回も勝てていないのです」
    その視線を足元の天然芝に落としながら、熟練のスタッフが口を開いた。
    これだ、とわかった。
    試合前の練習からけっして心うわずることなく、至極淡々とフォーメーション練習を繰り返していたフェニックスの面々だ。4年生は静かなる闘志を内に秘め、おごらず騒がずやるべきことをひたすらにやり続けていた。
    きれいなホワイトジャージは、一気に戦闘モードへと突入した。
    「これまで自主を掲げて、ようやくひとつになってやれたように思います。地道な身体づくりから何から選手たちは、こういう時期ながら、それぞれにひたむきにやっていました。ここまできたこと、フットボールができることに感謝する気持ちが皆にあるのです」
    あたりに静かに語り掛けるすべを知る橋詰監督だった。

    逆に、つねに豊かな個人技で、伸びやかなままフィールドを駆け抜ける法大には、ここ一番でスペシャルプレイを有する。それだけにどこで何を仕掛けてくるか、じつにわかりづらい秀逸なオフェンスを見せてくれる。
    千葉日大一高時代から名を成す2年目の若きパッシングQB4平井は前年の試合経験を活かし左右へのランパスを交え長身WR81神とWR11小山さらにWR7糸川へ、インサイドへ切れ込むミドルパス、加えてエースRB29阿部およびRB30星野へのピッチとハンドオフでロングゲインを得る変幻自在な攻撃が持ち味。

    試合はTDを取ったら取り返すというシーソーゲームさながら。とはいえ日大ベンチには焦りはなく、充分なまでに落ち着きがあった。
    とくに1年生で全日本大学選手権(甲子園ボウル)を制したQB19林は後半に少しバテでボールが手につかなくなったと言うものの強固なOLによるパスプロに守られ、広範囲でターゲットを探し、ホットラインWR25林を軸にパスを投じていた。また、それぞれ走力あるRB30川上とRB39秋元にさらりとハンドオフ、軽快に走らせてTDを得ていた。
    日大RBはタックルを受けながらも、次の強烈なしめのタックルをはずして進む優れたテクニックがあった。そこにみられたのは歩幅や上体の角度変化そして強靭な下半身とドライブ力である。

    「残念な結果でした。この情勢で練習開始が遅れて、それでも日大と対戦するのが楽しみで、選手たちも我々も気持ちを入れて頑張ってきました。タックルミスが痛いのはありますが、こちらもRBランなどに気持ちが込められた良い部分がありました」
    ベンチサイドで心広くフィールドを見回し、ここだという場面でしっかりとした指示を与えていた法大の有澤監督だ。
    一発を秘めた法大は技術あるOLラインが巧みにブロックして道をあけ、その背を盾にしてカットランで突き進みロングゲインでTDをあげ、ときおり見せるノーハドルオフェンスも功を奏し、バランスアタック法大の妙がそこにあった。

    日大守備のかなめ伊東主将は、ベンチで声高く鼓舞する大切さを念頭に、強い気持ちを表した。その情感をあらわにしながらもただの感情には走らず、なぜこうなったのか、ならばこうしていこうという説明を加え、そこにいまの日大らしさが垣間見えた。
    「内容はまだ全然です。とにかく勝てて良かったです。これまでひたむきに取り組んできたフィジカルの強化とその取り組みが間違いではなかったことが証明されました。いま4年生全員が思い切りよく、すべてをやりきろうとしています」(日大・伊東主将)
    日大の4年生は法大からついに勝利を得た。
    合わせて78点の大量得点とはなったが、大味にはならない締りのある好試合だった。後半にはやや落ちたスピードとスタミナはこの先のゲームでともに上がってくるはずだ。

    「まだ、わからないのです。もう少し冷静にならないと負けたことが理解できません」
    悔しさが上まわり、しばらく呆然としていた法大OL52山岸主将だった。
    もちろん12月の甲子園ボウルをめざしてチームメイクしてきた法大、そのもの相当な覚悟を胸に、当然のことながら初戦に勝利して一気に頂点を狙っていた。

    だが日大のまとまりと静かな気迫に押され、試合中ほんの半歩であろうか、先を行くことを許してしまった。

    〔関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文〕
  • 第1節2020年10月11日(日)明治大学○21-13●立教大学

    『開幕戦は明大が制す』

    いよいよ関東学生アメフトが始まった。
    今シーズンはTOP8を2ブロックに分けて4チームずつでのリーグ戦、そしてA-Bのブロック間で順位決定戦を行う。
    この土日は開幕だったが、ところが台風の影響で10日(土)の2試合「中大-東大および早大-桜美林大」は17日(土)へ延期された。

    紫紺の明大には4年生のエースQB4西本の存在があった。
    ときに強肩からのパスがTD87大島とWR7川原田らにヒット、もともとの個性あふれるランユニットを駆使して、RB6森川やRB29山田主将らにハンドオフして前進さらには往年のオプションランで魅せてくれもした。
    「試合勘を取り戻すのがなかなかできなくて、まずは勝ってよかったなと思います。そんなモチベーションを保つのが難しくて、それは主将の山田がよくまとめてくれました。また、練習でやれていたことが試合でできない、そのあたりを修正していきたいです」
    その大柄な身躯でサイドラインから広くフィールドを見据える明大の岩崎監督だった。
    得意とするランで決めようと重厚なOLがしっかりとブロックそして的確なWRへのパッシングを織り交ぜTDを重ねた勝利である。
    「今日はオフェンスをテンポよく進めることができました。自分ではコンスタントに走り、次はセカンドエフォートも激しくいきたいです」
    そのひたむきな走りでチームをけん引した明大の山田主将。

    2本先制されてしまい、それを追いかける立大は前半FG1本を決め後半にかけていく展開。ただ、流れはやや後手にとの印象で進んでいった。
    「全然やることが足りないのがわかった。だから、これ以上できませんというまでやり遂げよう、それが大事だ。なんとなくではなく、おのおのが目的を持ってだ」
    試合後、さかんに基本姿勢を説いていた中村監督だ。
    高校の埼玉茨城千葉地区(SIC)の強豪立教新座高からの進学者が大半を占め、そこに都内の有力校から入部をみてレベルアップが久しい立大。ここまでの情勢からいくらか練習不足になりながらも、先への精進を欠かさない。
    「オフェンスは4本のTDが目標でした。完敗です。相手との熱量の差かもしれません。それを練習で埋めきること。そして先は1年生QBを盛り立てていきたいです」試合中に確実にOLをリードしていた立大のOL67三隅主将。
    立教新座高出身の新人QB10宅和は、その長身から投げ下ろすミドルパスと、広い視野にセンスを有した。彼は今後さらに成長が期待できる逸材だ。

    〔関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文〕